賃貸住宅修繕共済とは?大規模修繕に備える仕組みとメリット、注意点

マンション基礎知識

2023年3月13日

賃貸住宅を経営していると、避けては通れないのが大規模修繕です。鉄筋コンクリートの丈夫な建物でも、10年を過ぎれば劣化も目立つようになり、外壁等の修繕が必要になります。

そのために賃貸経営をしている人は大規模修繕費を積み立てていると思いますが、この積立金が課税対象となっていたことから、実際に修繕するときには費用が足りなくなってしまうということもありました。

それでは健全な賃貸経営ができないことから、賃貸住宅修繕共済制度がスタートしました。しかしまだ運用が開始されたばかりで、加入すべきか迷っている人も多いと思います。そこで今回は、賃貸住宅修繕共済とはどのような仕組みなのか、そのメリットや注意点について詳しく解説します。

賃貸住宅修繕共済とは

大規模修繕費用は、賃貸住宅の費用の中でも最も大きなものです。もちろん、オーナーは将来を見据えて積み立てをしていますが、それだけでは不十分です。そこで、その不足分を補えるようにできた共済制度が、この賃貸住宅修繕共済です。

全国賃貸住宅修繕共済協同組合が運営

2021年10月に認可され、2022年5月にいよいよ運用開始となりました。全国賃貸住宅修繕共済協同組合が運営元となっており、この組織は、

  1. 全国賃貸管理ビジネス協会
  2. 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会
  3. 公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会

の3つの団体によって立ち上げられたものです。

修繕と火災の損害を補償

まだ始まったばかりの制度ですが、修繕積立金がただの積み立てではなく共済掛金となるため、経費の計上が可能となったのです。これは賃貸オーナーにとって大きなメリットです。

賃貸住宅修繕共済は、修繕共済と火災修繕共済が組み合わさってできた制度です。それぞれ、カバーできる分野が違います。対象となるのは以下の部分・災害です。

【修繕共済】

  • 屋根
  • 軒裏
  • 外壁

【火災修繕共済】

  • 火災
  • 落雷
  • 破裂または爆発

劣化による修繕だけでなく、火災などの修繕費用も支払われるのが特徴です。なお、火災修繕共済は、1回につき30万円が上限となっています。

共済金を受け取るための要件

劣化して修繕すればすべて共済金が支払われるわけではありません。支払いには条件がありますので、注意してください。

  • 木造は築30年以内、それ以外は築40年以内であること
  • 1年前の定期検査では、劣化事象が発生していなかったこと
  • その箇所に劣化事象が発生して、初めて行われる修繕であること
  • その修繕に対し、組合が合理的と認めた範囲内であること
  • 上記の定期検査日から2年以内に修繕が行われること

たとえば木造アパートであれば、築30年以内で、これまで劣化事象が発生しておらず、1年前の定期検査でも見つからなかったが、今回初めて発生したもので、なおかつ組合が認めたものに限り、支払いの対象となるということです。

共済掛金の金額

掛金は一律ではなく、補償を希望する金額や契約期間によって変わってきます。たとえば、10年後に2,000万円必要で、1,500万円の補償が必要な場合、以下のように計算します。

1,500万円÷10年÷12(月払いの場合)=125,000円

掛金を低くするには補償額を下げるか、修繕までの期間を長くすれば良いということです。契約期間(共済期間)は10年以上1年刻みで設定できます。

賃貸住宅修繕共済のメリット

支払い条件が限られているとなると、入るべきか迷う人もいると思います。確かに全ての修繕が対象になるわけではありませんが、共済制度にはこのようなメリットもあります。

経費に計上できる

最初にも説明した通り、掛金は経費として計上できます。通常修繕費は、賃貸オーナーが個人で積み立てているため、預金となってしまい、経費に計上はできず課税対象となっていました。

この共済制度を利用すれば経費として認められるので、賃貸経営を行う上で大きなメリットとなるでしょう。

大規模修繕で安定した経営ができる

加入するためには長期修繕計画が必要になりますので、必然的に計画的な修繕ができるようになります。積立金も無理なく貯めることができて、安定経営につながるでしょう。

火災による損害にも共済金が支払われる

劣化による修繕は対象箇所が限られてはいるものの、火災などの損害にも備えることができるのは、大きなメリットです。

賃貸住宅修繕共済に加入しない場合にかかる費用

本当に加入する必要があるのか迷っているなら、加入しなかった場合にどのくらいの費用がかかるのかをみてみましょう。

国土交通省が実施した「令和3年度 マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によりますと、建物の規模と部屋数によって違ってくるものの、1回目の工事周期は15.6年、金額は4,000万円〜6,000万円が最も多くなっています。

大規模修繕にいくらかかるかは建物の規模と部屋数によって違ってくるものの、一つの目安になると思います。もし修繕に5,000万円かかるとしたら、単純計算ですが、1年間に300万円以上の積み立てが必要になるでしょう。

これはあくまでも調査による平均値ですから、自分が所有する賃貸物件がこのタイミングよりも早く修繕が必要となるケースも想定されます。そのときに、積立金が足りなくて修繕できないというケースは少なくないのです。ですから、たとえ修繕箇所が限られていたとしても、この共済制度に加入するメリットは大きいといえます。

賃貸住宅修繕共済の注意点

賃貸住宅修繕共済に加入するメリットは大きいですが、いくつか注意すべき点もあります。

共済金の出る修繕が限られている

最初にも説明した通り、共済金の対象となる箇所が限られており、屋根、外壁、軒裏以外は修繕しても共済金の対象外となってしまいます。今のところ、劣化しがちな給排水設備や空調設備などの修繕に共済金を利用することはできません。

今後は、ニーズの高い箇所の修繕に関しても拡充されていくといわれていますが、時期などは未定です。

掛け捨てなので解約返戻金はない

賃貸住宅修繕共済は掛け捨てです。解約返戻金はないですし、満期金もありません。貯蓄するためのものではないからです。しかし、解約返戻金がないことは、掛金を安く抑えることにもつながりますので、あながちデメリットばかりとはいえないでしょう。

長期修繕計画の提出が必要

この共済制度に加入するには、長期修繕計画を提出しなくてはなりません。この計画書を元に掛け金が算定されるからです。当然作られているものと思いきや、個人でマンション経営をしている方は、まだ策定していないという方もいるでしょう。

個人で作れる人は少なく、管理会社などに策定をお願いすることになります。面倒ではありますが、共済加入をきっかけに長期修繕計画をつくることは、将来を見据えた安定経営にもつながります。デメリットばかりではないので、ぜひ策定してください。

賃貸住宅修繕共済加入の方法

賃貸住宅修繕共済に加入するには、まず共済代理店の検査を受けます。加入前の劣化状態を確認し、あわせて長期修繕計画も提出します。すでに劣化が生じている箇所があると、そこを修繕してからでないと加入できません。

共済掛金が決定したら加入申込書を提出し、正式加入となります。加入には賭け金とは別に出資金1,000円が必要です。毎月5日までの加入分は当月1日から共済期間が始まりますが、5日を過ぎると翌月扱いになりますので、加入時期については注意しましょう。

まとめ:賃貸住宅修繕共済は賃貸オーナーにメリットの大きい制度

賃貸住宅修繕共済は、賃貸アパートやマンションの大規模修繕に備えて積み立てをする制度ですが、まだ運営が始まったばかりの制度なので、加入すべきかと迷っているオーナーも多いと思います。

この共済制度によってカバーされるのは外壁、軒裏、屋根と場所が限られていることから、メリットを疑問視する人もいるでしょう。しかし、掛金は経費として計上ができますし、加入に当たっては長期修繕計画が必要となりますので、必然的に将来にわたって安定経営を続けることにもつながります。大きな金額が必要となる大規模修繕に備えるためにも、加入を検討する価値はあります。

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